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相続の度に土地が減る!?「先祖伝来の土地」を守り抜くのは難しい時代に

2023/6/6

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

吉田 信之(仮名)

東京都在住。69歳。
先祖伝来の土地を守ることを兄から託されたが、相続対策ができていなかったことから、兄嫁に全ての土地を売却されてしまう事態に。

先祖伝来の土地は決して人手に渡さない!病床の兄との誓い

私の実家は、地主の家系です。両親の相続の際には、土地は全て長男の兄が相続し、次男の私は金融資産の一部を相続するにとどめました。そうしたのは先祖代々受け継いできた土地を散逸させないためであり、私には全く不満はありませんでした。

3年前、兄は末期がんで余命宣告を受けました。兄が亡くなった場合、兄嫁(義姉)とひとり息子のヒロユキ(私の甥)の2人が相続人となります。ある日、病床の兄は私に、こう言いました。「俺が死んだら、ヒロユキが本家の跡取りだ。だけど、46歳になっても独身。結婚する気もないらしい。そこで、ヒロユキの後は、お前の長男のタカシに継いでもらいたい。いいか、先祖伝来の土地、特に本家の屋敷地は絶対に人手に渡すんじゃないぞ」

私は、兄の切実な思いに全力でこたえていくことを誓いました。

今後の対策をヒロユキに提案するも実施には至らず

やがて兄は亡くなり、その全財産をヒロユキが相続しました。幸い、兄は金融資産もかなり持っていたため、土地を切り売りすることなく、何とか 相続税 を納税できたそうです。一方、私は司法書士に相談し、先祖伝来の土地を守るための対策を必死で考えました。「タカシをヒロユキの養子にする」「土地をタカシに 遺贈 する旨の遺言書をヒロユキに作成してもらう」といったアイデアをヒロユキに提案すると、一定の関心を示していましたが、「まあ、もうちょっとしたら考えるよ」と、すぐには実行に移してくれませんでした。私も「ヒロユキはまだ若いから、おいおい進めていけばいいか」と思っていました。まもなく予期せぬ不幸が訪れるとも知らずに。

思いがけないヒロユキの急死。兄嫁に相続された先祖伝来の土地の行方は…

ヒロユキがくも膜下出血で倒れ、そのまま帰らぬ人となったのは、兄の三回忌を目前に控えた日のことでした。結局結婚せず子供もいないヒロユキの全財産は母親(兄嫁)に相続されました。ヒロユキの四十九日の法要が終わった後、私は兄嫁に亡き兄の思いを伝え、「相続税の納税資金の確保が大変かもしれないけれど、本家の屋敷地だけは絶対に売らないで欲しい。また、先祖伝来の土地を守るため、義姉さんの後はタカシに承継させたいと思う。協力して欲しい」と懇願しました。しかし、すでに売却を考えているのか、兄嫁のもとには既に複数の不動産会社がアプローチしているらしく、兄嫁の妹の娘であるファイナンシャルプランナーが、その応対をしているようで、いい返事はもらえませんでした。

兄嫁が土地を全て売却し、高級老人ホームに入ったという噂を聞いたのは、それから1年足らずのことでした。驚愕した私は兄嫁の携帯に即座に連絡しましたが、着信拒否にされているようで、何度かけても通じません。車を飛ばして本家に行ってみると、そこには変わり果てたわが一族の「聖地」の姿が。大きな母屋は解体されて既になく、工事の囲いがしてあります。近所の人の話では、購入した建売業者が8戸の戸建て住宅を建て、分譲するとのことでした。近隣の駐車場等も、人手に渡ってしまっていました。売却代金は、相続税の納税資金と老人ホームの高額な入居一時金に充当されたのでしょう。「兄貴、ごめん。ご先祖様、お許しください」私はとめどなく流れる涙をどうすることもできませんでした。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

「先祖伝来の土地を守っていきたい」という地主さんたちの思いは、切実です。旧民法の家督相続は、長男が全ての財産をひとりで相続するのが原則とされており、先祖伝来の土地を散逸させることなく承継していくことに適した相続方法でした。

しかし、現在は、「全ての財産を長男に相続させる」という遺言書を作成しても、兄弟姉妹やその代襲相続人(被相続人の死亡以前に、相続人となるはずの人が死亡していた場合などにその者に代わって相続をする人)を除く相続人には遺留分(遺言によって奪うことができない最低限の遺産取得分)が認められており、遺言者の思い通りになるとは限りません。

また、少子化が進み、生涯未婚率も高まってきている昨今、子がない人の相続財産が配偶者に相続され、配偶者の死後、その兄弟姉妹等に相続されることで、結果的に「他家に流出」してしまうケースも増えています。

更に相続税は現金での一括納付が原則です。相続税を納めるために不動産の一部を売却せざるを得ない場合もあり、「相続を繰り返すたびに土地が減る」と嘆く地主さんもいます。

 本事例では、体験者のお兄さんは、先祖伝来の土地をまず息子のヒロユキさんに、ヒロユキさんの後は体験者の息子であるタカシさんに承継させたいとのご意向でした。財産をあらかじめ決めた人に複数世代にわたって承継していきたい場合、家族信託(受益者連続型信託)の活用が効果的で、地主さんたちを中心に活用事例が増えてきています。本事例においては、体験者のお兄さんが元気なうちに家族信託(受益者連続型信託)を活用した対策を講じておけば、違った結果になった可能性が高いと思われます。

解説者プロフィール

廣木 涼

司法書士事務所アベリア

司法書士

廣木 涼

大手司法書士法人で約5年の勤務、相続事業部のマネージャーを務め、独立。 不動産会社や保険会社など様々な業種と連携しながら、士業の枠に捉われず、多角的な視点から、遺言・家族信託等、生前の相続対策に関する総合的なコンサルティングサービスを提供しています。


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