安すぎる売買は贈与税がかかる? 知らなかった「親族間売買」のこと
2023/6/29
もくじ
この相続事例の体験者
酒井 和美(仮名)
埼玉県在住。51歳。母の相続で、従兄弟と共有状態にある相続不動産があることを知り、将来子供たちに迷惑をかけないように共有状態を解消すべく動き出すことに。
従兄からの指摘で気づいた母の意外な相続財産
母が亡くなり、相続手続きを司法書士に依頼した矢先、M市に住む従兄から「うちの敷地の叔母さんの持分だけど、このタイミングで俺が買い取りたいと思って」と電話が入りました。「持分?何のこと?」と私が聞き返すと、「えっ?叔母さんから何も聞いてなかったの?」と驚かれ、従兄はいきさつを説明してくれました。
昔、私の祖父と叔母(母の姉で長女)夫婦はお金を出し合いM市に土地を購入したそうです。その土地に家を建て、祖父母と叔母夫婦が2世帯で暮らし、祖父母が亡くなったタイミングで次女である私の母が1/4相続し、叔母夫婦が亡くなって一人っ子の従兄が3/4を相続したとのこと。そのため母は固定資産税の一部を負担していたそうですが、母の生前、この話を聞いたことはなく、私は全く知りませんでした。
共有持分の売買、身内だからタダというわけにはいかない?
私はM市から離れたF市に住んでいます。従兄の家の敷地の持分を所有するメリットはありません。また、私の子供たちもF市在住ですが、従兄の子供たちとは互いに面識はありません。「このまま子供たちの代になると大変だから、今のうちに共有状態を解消しておいた方がいい」という従兄の言い分はもっともで、私に異議はありません。
「買い取るなんて水臭い。ただで引き取ってくれればいいよ」と私は言いましたが、「それだと贈与税がかかるらしい」と従兄。「じゃあ、いくらで売買すれば問題ないの?」と聞くと、従兄もよくわからないとのこと。私は、相続手続きを依頼した司法書士に、共有状態の解消についてのアドバイスを求めることにしました。
時価を下回る金額での取引は「贈与税」の対象に?
司法書士は、「このタイミングで共有状態を解消するのは良いことだ」と言ってくれました。その上で、「時価より明らかに安い価格で買い取った場合、贈与と見なされ、従兄に贈与税がかかることもあるため、客観性のある適正価格で売買すべき」とのアドバイスをくれました。
司法書士に紹介してもらった税理士、不動産会社と協議した結果、従兄の家の敷地の母の持分の価格は「350万円程度が妥当」ということになりました。従兄も「まあ、そんなところだろう。それくらいなら、問題なく支払える」と安堵していました。その後、母の持分を私の名義に変更した上で、不動産会社に仲介に入ってもらい、従兄と私は売買契約を締結。売買代金の受け渡しもスムーズに終わり、共有を解消することができました。子供たちに将来的なリスクを残さずに済み、本当に良かったと思っています。
担当した専門家が解説!
「ここがポイント」
複数人で共有している不動産は、売却、解体、長期間(土地は5年超、建物は3年超)の賃貸などをおこなう場合、共有者全員の同意が必要です。共有者間の関係性が良好であるうちは良いのですが、いったん何かで揉めたり、代替わりで疎遠な共有者が入ってきたりすると、合意形成が難しくなり、同意が得られるづらくなるリスクもあります。こうしたリスクを防ぐためには、共有者全員が元気で円満なうちに、共有解消に向けた「出口戦略」について話し合い、実行に移すことが望ましいと言えます。
共有者の1人が他の共有者の持分を買い取り、共有者から外してしまう「持分売買」は、共有解消のための一般的な手段の一つで、本事例のように、売り手・買い手が親族関係にある持分売買は「親族間売買」と呼ばれます。
親族間売買における留意点は主に二つあります。一つ目は売買価格の決め方です。市場価格とかけ離れた低廉な価格で売買した場合、贈与とみなされ、「みなし贈与税」がかかる可能性もあるので注意が必要です。税理士や不動産会社にも相談の上、客観性のある適正価格で売買することをおすすめします。
二つ目は買主が購入資金を金融機関から借り入れようとすると、かなりハードルが高くなるという点です。これは売主・買主が親族同士という近しい関係にあるがゆえに、双方が結託し、持分売買以外の使途に資金を流用などの懸念が大いに考えられるからです。売買金額が大きく、買主の資金調達が前提となるような場合は、早めに金融機関に相談してみることをおすすめします。
解説者プロフィール
司法書士事務所アベリア
司法書士
廣木 涼
大手司法書士法人で約5年の勤務、相続事業部のマネージャーを務め、独立。 不動産会社や保険会社など様々な業種と連携しながら、士業の枠に捉われず、多角的な視点から、遺言・家族信託等、生前の相続対策に関する総合的なコンサルティングサービスを提供しています。