二次相続以降の相続人は遺言書では決められない!「家族信託」を活用することで実現
2023/8/31
もくじ
この相続事例の体験者
森村 孝志(仮名)
東京都在住。55歳。
「再婚相手の連れ子には相続させたくない」。父の意向を叶えるべく専門家に相談すると、受益者連続型信託という家族信託で実現できることを知る。
再婚した父を祝福する一方、再婚相手の連れ子との関係に一抹の不安
私は11歳の時に母を亡くしました。父は男手一つでひとり息子の私を育て上げてくれました。私は就職と同時に立川市内の家を出て、以来ずっと杉並区内で暮らしています。
父が博美さんと再婚したのは、今から15年前のこと。父は66歳でした。母を亡くしてから27年間、一人で頑張ってきた父のことを思うと、私は素直に祝福したいと思いました。博美さんには優子さんというひとり娘がいます。再婚直後、一度顔を合わせましたが、押しの強い人で、父に対する言葉遣いもぞんざいでした。「博美さんはいい人だけど、優子さんと父は仲良くやれるのだろうか?」と一抹の不安を覚えました。
再婚相手の連れ子には財産を遺したくない!
先月、父から喫茶店に呼び出されました。「俺も今年で81歳。遺言書を作っておきたい」と父は言います。「俺が死んだら博美とお前が相続人。俺の財産は自宅と2,000万円程度の預金。博美の住む場所を確保してやりたいので、立川の家は博美に、預金はお前に相続させたい」という父の言い分に異存はありません。
「ただ、博美の死後、博美の財産は優子に相続されてしまう。俺はハッキリ言って優子は嫌いだ。だから 養子縁組 もしなかった。俺の死後、立川の家は博美が相続し、博美の死後はお前に引き継いでもらいたい。引き継いだ後は、売却してもらって構わない。遺言書を書いて、優子の手に渡らないようにしたいんだ」
父の意向を受け、私は友人から紹介された司法書士に相談してみました。
家族信託である「受益者連続型信託」を活用し理想の相続対策に
「お父様のお気持ちはわかりますが、そのような遺言書は無効です。博美さんが相続した後は、自宅はもはや博美さんのもの。博美さんの死後、自宅をどうするかについて、お父様に口を出す権利はないからです」という司法書士の説明を受け、私は肩を落としました。
「でもご心配なく」と司法書士は続けました。「 家族信託 を使えば、お父様のお考えを実現可能です。家族信託は、元気なうちに信頼できる家族に財産を託し、管理を任せる財産管理の手法です。ご本人が判断能力を失っても、ご家族がご本人のために財産の管理や処分をおこなうことができるため、認知症等による『資産凍結リスク』への対策手法として、知られるようになってきています」「加えて家族信託にはもう1つの使いみちがあります。『受益者連続型信託』と呼ばれるもので、 二次相続 以降の財産の承継先を決めることができるのです」
受益者連続型信託を活用するためには、
《父は自宅の管理を私に託し、私は父のために自宅を管理》
《父の死後、私は博美さんのために自宅を管理》
《博美さんの死後、信託契約は終了し、私が自宅を取得》
このような一連の流れについて定めた信託契約書を、父と私の間で交わしておく必要があるそうです。
これにより、自宅は事実上、父⇒博美さん⇒私と受け継がれ、優子さんの手に渡ることはありません。父に報告したところ、「すぐ着手しよう」という話になり、現在、司法書士のサポートの下、準備を進めています。
コメント1件
てるてる坊主
大変勉強になりました。法律は誰が教えてくれるわけでもなく、自らが必要と感じた時に自らが調べ、はじめて知ることも多く、特に相続に関わる部分は、人それぞれシチュエーションが異なりますので、誰にでもあてはあまるような教科書的な対処法がインターネット上に落ちているのも稀です。また、相談先を探すのも躊躇してしまうので、こういった人様の事例は大変参考になるものと感じました。
2023-11-17 21:46:38
担当した専門家が解説!
「ここがポイント」
自分の財産の承継先を決める上で効果的な遺言書ですが、「二次相続以降の財産の承継先を決めることができない」という弱点があります。しかし、家族信託を使うと、遺言書のこの弱点をカバーすることができます。本事例に即して、具体的にご説明したいと思います。
まず、お父様(委託者兼受益者)は長男の孝志さんを受託者としてご自宅を信託します。お父様の存命中、孝志さんはお父様のためにご自宅を管理します。お父様はご自宅から発生する利益を受け取る権利「受益権」を持っています。本事例の場合、「受益権≒ご自宅に住む権利」と考えて良いでしょう。
更に、「妻博美が死亡した場合、この信託は終わりにする」と書いておきます。家族信託では、信託終了後、受託者が管理している財産を誰が取得するか、信託契約書に記載しておくのが一般的です。「長男孝志が取得する」と記載しておけば、最終的にご自宅を孝志さんの財産とすることができ、お父様が思い描かれていた二次相続プランが実現できたことになります。
このように、受益権の承継先をあらかじめ決めておくタイプの家族信託を「受益者連続型信託」といい、遺言書では実現が難しい「二次相続以降の承継先の指定」を実現することができるのです。
解説者プロフィール
司法書士事務所アベリア
司法書士
廣木 涼
大手司法書士法人で約5年の勤務、相続事業部のマネージャーを務め、独立。
不動産会社や保険会社など様々な業種と連携しながら、士業の枠に捉われず、多角的な視点から、遺言・家族信託等、生前の相続対策に関する総合的なコンサルティングサービスを提供しています。