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遺言書が貸金庫から出せない!? しかし「公正証書遺言」だったことで事なきを得る

2023/9/29

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

安城 好子(仮名)

千葉県在住。60歳。
可愛がられていた叔母から貸金庫にある自分あての遺言書のことを聞いていたが、いざ確認しようとすると、銀行から相続人全員による手続きが必要と言われ、途方に暮れる

生前に聞いていた公正証書遺言が貸金庫に保管されている事実

母の妹にあたる叔母は生涯未婚で子供がいなかったため、私を実の娘のようにかわいがってくれました。叔母が80代後半になり、足腰が衰えてからは、近所に住んでいたこともあり、私は毎日のように叔母の家を訪ね、買い物や炊事洗濯を手伝っていました。

そんなある日、叔母にこう言われました。「今から10年くらい前に、弁護士さんに手伝ってもらって、 公正証書遺言 を作ったの。私の全財産は半分を教会に寄付し、もう半分はあなたにあげるという内容」「この家の権利証とか大事な書類と一緒に遺言書を銀行の貸金庫にしまってあるから」

私はうれしく思うと同時に「叔母さんが亡くなったら、銀行に行って貸金庫を開けてもらえばいいんだな」と、特に深く考えることなく理解しました。

叔母が亡くなったのは、それから数年後のこと。葬儀や納骨を済ませた後、私は叔母が貸金庫を借りている地方銀行の支店に足を運んでみることにしました。

貸金庫の中身の確認には相続人全員による手続きが必要!?

「叔母はこちらで貸金庫を借りていたのですが、先日亡くなりました。貸金庫の中に叔母の遺言書が入っているそうなので、確認したいのですが」と伝えると、窓口の担当者の方から、このように案内されました。「お亡くなりになった方の貸金庫を開ける場合、ご解約手続きをお願いすることになります。こちらの書類にご相続人全員のご署名とご実印でのご捺印をいただき、皆さんの印鑑証明書を添えてご提出いただけますでしょうか?」

「相続人全員って・・・?」叔母は5人きょうだいの末っ子でしたが、私の母も含め、兄弟姉妹は全員亡くなっています。叔母の相続人は私の従兄弟たちということになりますが、10名ほどの人数になります。連絡先がわからない人や高齢の人もいます。「この書類に全員の署名捺印をもらい、印鑑証明書までもらうなんて、とても無理だ・・・」途方に暮れた私は、母の相続でお世話になった司法書士の事務所に相談に行きました。

公正証書遺言だったことで遺言執行が無事に完了

司法書士からは、こんな説明を受けました。「被相続人の貸金庫を解約し、内容物を確認するためには、 遺言執行者 が銀行窓口に遺言書(公正証書遺言の場合、遺言書の正本または謄本)を提示する必要があります。しかし、遺言書が貸金庫の中に保管されてしまっている場合、相続人全員による手続きが必要になってしまいます。ただし、今回は幸いなことに叔母様の遺言書は公正証書遺言なので、何とかなる可能性がありそうです」

公正証書遺言の場合、原本が公証役場に保管されており、照会が可能とのこと。私は、司法書士に教えてもらった通り、最寄りの公証役場に予約を取り、「遺言書検索システム」を使って、叔母の遺言書について検索してもらいました。すると、叔母は16年前にこの公証役場で公正証書遺言を作成していたことがわかり、所定の手続きを経て、遺言書の謄本を取得することができました。謄本には叔母が話していた通りの内容が書かれており、遺言執行者として市内の弁護士法人が指定されていました。早速、弁護士法人に連絡し、叔母が亡くなったことを伝え、無事に遺言書の内容を実現してもらうことができました。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

公正証書遺言の場合、原本、正本、謄本の3部が作成されます。原本は公証役場に保管され、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が正本を、遺言者が謄本を保管するケースが一般的です。

本事例では、叔母様は遺言の作成を手伝ってくれた弁護士法人を遺言執行者に指定していました。この弁護士法人は遺言書の正本を保管しており、叔母様のご逝去の連絡が入り次第、遺言執行の手続きをしてくれることになっていたのですが、叔母様は、このことを好子さんに伝えていませんでした。加えて、遺言書の謄本をご自身の名義の貸金庫に保管してしまったため、好子さんは、相続人全員の協力なくしては、叔母様の貸金庫を開けることができず、「遺言書が存在することはわかっているけれど、内容が確認できず、手続きが進められない」という事態に陥ってしまいました。

1989年以降に作成された公正証書遺言の作成情報は、日本公証人連合会によりデータベース化されており、遺言の作成年月日、遺言者の氏名、作成した公証人の氏名、作成した公証役場などの情報を全国の公証役場で検索することが可能です。また、遺言書が作成された公証役場を窓口として手続きを踏めば、遺言書の原本を閲覧したり、謄本を取得したりすることも可能です。好子さんにはこの制度をご案内し、事なきを得ました。

一方、自筆証書遺言の場合、法務局(遺言書保管所)による「自筆証書遺言書保管制度」を活用した遺言書を除き、遺言書の存在や内容を相続人が確認する手段は、その遺言書を自力で発見して、直接確認するしかありません。さらに、被相続人名義の貸金庫に保管されていた場合、相続人全員による手続きに手間取り、貸金庫の内容物の確認が大幅に遅れてしまうリスクがあります。「遺産分割協議がまとまった後に、遺産分割協議とは違う内容の遺言書が貸金庫の中から出てきた」という話もあります。このようなことにならないよう、遺言書の保管方法は、遺言者と生前に話し合っておくなど細心の注意が必要です。

解説者プロフィール

廣木 涼

司法書士事務所アベリア

司法書士

廣木 涼

大手司法書士法人で約5年の勤務、相続事業部のマネージャーを務め、独立。
不動産会社や保険会社など様々な業種と連携しながら、士業の枠に捉われず、多角的な視点から、遺言・家族信託等、生前の相続対策に関する総合的なコンサルティングサービスを提供しています。


コメント⾮表⽰

コメント1件

aki8

遺言が遺されているだけでは安心できないのですね。「公正証書遺言」の重要性がよくわかるエピソードでした。

2023-11-07 15:30:45