相続させたい人が意識不明状態に!「予備的遺言」で不確実な未来に備える
2024/3/5
もくじ
この相続事例の体験者
下田 美子(仮名)
埼玉県在住。70歳。
夫亡きあと、甥に将来の面倒を見てもらうことを希望していた。しかし、甥が突然脳出血で倒れるという予期せぬ状況に直面し、遺言の見直しを迫られる。
夫亡きあと頼りにしようと思っていた甥が倒れた!
7年間の闘病の末に昨年、夫は肺がんで亡くなりました。夫は生前から、私たち夫婦に子どもがいないのと、私が病弱なため、私が独り残されることをとても心配していました。そこで夫は、自分が亡くなった後の私のことを、私の甥に頼んでくれていたのです。
甥は私の亡くなった姉の子にあたります。幼い頃から優秀で、姉にとって自慢の息子でした。若くして企業の取締役になっていたこともあり、甥なら頼りになると夫も考えたようです。甥に話したところ「お役に立てるなら何でもやるよ」と快諾してくれたので、ほっとしました。万が一、私が認知症になっても困らないようにと、任意後見人になってもらうつもりで、準備も進めていました。
しかし、安心したのも束の間、甥が脳出血で倒れたのです。まだ50代で元気そうだったのに、突然のことでした。倒れてから甥はずっと寝たきり状態で、会話もできません。
意識不明の甥と高齢の私はどちらが先に亡くなるのか?
甥が倒れる前、甥とは何度か今後のことで話をしていました。そして、私に万が一のことがあったときはお世話をお願いする代わりに、私の財産はすべて甥に渡したいと思っていることも伝えていました。
私には姪もいるのですが、彼女は若い頃から海外で暮らしていて疎遠なため、もともと姪に財産を渡すつもりはありませんでした。
しかし、甥の容体はあまりよい状態ではないので、このままでは私の相続が発生するときに甥が生きているかどうかわかりません。「私が先に亡くなったら財産は甥に相続したいけど、もし甥が先に亡くなってしまった場合はどうしたら良いのだろう?」
不安に思った私は、相続に詳しい専門家に相談することにしました。
行政書士から教えてもらった「予備的遺言」という方法
さっそく行政書士を訪ね、私と甥の状況や遺言書について相談すると、行政書士は「予備的遺言を書くといいですよ」と教えてくれました。
予備的遺言とは、財産の受け取り先に指定していた人が先に亡くなった場合に備えて、次に相続する人を指定することのようです。私は、甥が先に亡くなったらほかの身内ではなく、自分の住んでいる自治体に寄付したいと思うようになっていました。行政書士に聞くと、そのような場合も予備的遺言で対応できるとのこと。
しかし、行政書士は「自治体に寄付するなら条件を確認してみます。条件に合わない場合は、受け取りを拒否されることもあるので」と言いました。そこで、自治体に 遺贈寄付 の条件を確認してもらったところ、 公正証書遺言 で遺贈について記載がなければ受付できないとわかりました。予備的遺言や寄付の条件など、知らないことだらけだったので、専門家に相談して本当に良かったです。
担当した専門家が解説!
「ここがポイント」
遺言書には、自分のどの財産を誰に譲りたいかを書きますが、「誰に」の対象者が自分よりも先に亡くなってしまう場合もあります。この時、例えば遺言で「財産は全額妻へ」と書いたものの、自分よりも先に妻が他界した場合は、遺言書は無効になってしまいます。
このような場合、予備的遺言を書いておくことで、相続予定者が亡くなっていたときに、次の相続人を指定することができます。もし予備的遺言を書かなかったとしても、相続予定者が他界したあとすぐに、新しい相続人を決めて遺言書を書き換えれば対応可能ともいえるかもしれません。しかし、公正証書遺言では新しい遺言にするために手数料がかかりますし、作成し直す手間もかかります。
今回のケースでは、甥御さんが万が一相談者さんよりも先に亡くなってしまった場合、遺言書は無効となり 法定相続人 の姪御さんが相続することになります。しかし、相談者さんとしては姪御さんへの相続ではなく自治体への寄付が希望だったので、予備的遺言を書くことにしました。今回のように、相続させる相手と年齢が近い場合や、今後状況が変わる可能性が高い場合などは、予備的遺言を使うと良いでしょう。
解説者プロフィール
ことり行政書士事務所
行政書士
行武 綾子
埼玉県所沢市で相続関連を中心に業務を行っています。遺言書があれば防げた相続トラブル、認知症になる前にやっておけば防げた事態、そういった事例を数多く目の当たりにし、事前の備えの重要性を感じています。元気なうちから気軽に対策に取り組んでいただけるよう、積極的に講座やセミナーで情報発信を行っています。