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知らなかった!「遺贈寄付」するには条件がある?

2024/4/12

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この相続事例の体験者

この相続事例の体験者

川嶋 美枝(仮名)

東京都在住。71歳。
夫が亡くなったのを機に、それまで仲のよかった夫の連れ子に不信感を抱くことに。身内には頼りたくないと考え始め、万が一のときに自分の財産の行方もしっかり決めておきたいと思い至り、準備を始めた。

身内に頼りなくない、任せたくない!

私は昨年、夫に先立たれて、都内のマンションで1人暮らしをしています。私と夫の間には子どもがいません。夫には離婚歴があって、前妻との間に2人の子どもがいました。連れ子ではありましたが、私と夫の連れ子との関係は良好で、2人がそれぞれ家庭を持ってからも、母の日には孫を連れて遊びにきてくれることもあったほどです。

しかし、夫が亡くなると状況が変わってしまいました。夫の葬儀が終わるや否や、2人は家にやってきて私と話をすることもなく、めぼしいものを見つけては持っていってしまったのです。夫の子どもなので、もともと相続する権利はあるのですが、お悔やみの言葉も何もなかったのでその態度にびっくりしました。

夫は生前「困ったときはあの2人がいるから安心だ」と頼りにしていました。私も同じように思っていたので、夫の死をきっかけにこんな態度をとられるなんて、とてもショックでした。

それを機に、今後自分に万が一のことがあったときに、2人に頼ったり任せたりすることが無いよう、事前に準備しようと決意しました。

万が一のときに備えて委任契約と遺言書を準備

しかし、準備といっても何から手を付けたらいいのかよくわかりません。そこで、親しくしている友人に相談したところ、彼女がお世話になっている行政書士を紹介してくれました。

さっそく行政書士に相談すると、万が一のときに必要となる 任意後見契約委任事務契約死後委任契約 をしておいたほうが良いとアドバイスを受け、手続きを進めることに。この三つの契約を結ぶことで、私が認知症などで判断能力がなくなったときの対応や、死んだあとの手続きなどを行政書士にお願いできるようになっています。

また、遺言書を作成することにしました。私には姉がいるのですが、もともとあまり仲がよくありません。私の相続人は法律的には姉になりますが、姉に渡すくらいなら、私の遺産を慈善団体などに役立てたいと思ったのです。

知らなかった!遺贈寄付は受け取り拒否の可能性も!

遺産を自治体や団体に寄付することを「遺贈寄付」と呼ぶそうです。私は遺贈寄付先を考え、災害の被災者支援などをおこなっている公益法人と、現在住んでいる自治体に寄付することを決めました。

寄付先を行政書士に伝えると「先方への遺贈寄付の条件を調べてみますね」とおっしゃいました。遺贈寄付は受け取る側が拒否すれば、遺言書があっても無効になる可能性があるそうです。このため、寄付先に遺贈の条件を確認して、確実に受け取ってもらえるように準備する必要があるとのこと。

行政書士が寄付先に確認したところ、どちらも遺贈寄付には条件があることがわかりました。条件の一つ目は、遺贈する財産に不動産がないこと。二つ目は、遺産に 遺留分 がないこと。三つ目は、 公正証書遺言 を残すことでした。

幸い私の財産のなかに不動産はなく、預貯金だけです。相続人も姉1人なので、遺留分はありません。三つ目の公正証書遺言は、多少費用はかかりますが、作ることに問題ありません。

寄付は喜ばれることはあっても、受け取りを拒否される可能性があるなんて考えたことがありませんでした。知らなかったら、私の意図しない形になっていたかもしれません。事前に正しい準備ができて本当に良かったです。

担当した専門家が解説!
「ここがポイント」

「身内に遺したくないから遺贈をしたい」というご相談をよく受けることがあります。その際はまず「遺留分」に注意が必要です。遺留分とは一定の関係性にある相続人に認められた遺産取得分のこと。配偶者直系卑属 (子どもや孫など)・直系尊属(両親や祖父母など)は遺留分が認められているため、遺産を全額遺贈するという遺言書を書いたとしても叶わないことがあります。ただし兄弟姉妹には遺留分がなく、本事例では 法定相続人 がお姉さまだけでしたので、財産を全額遺贈寄付できることになりました。

また、遺贈寄付を検討するときは、寄付先の条件を確認することが大切です。慈善団体やNPO法人、地方自治体など、遺贈寄付を受け付けている団体は多くあります。遺贈寄付は各団体にとってありがたいものですが、遺留分がないことや公正証書遺言であることなど、受け取る条件を設けていることも多いようです。

本事例にて寄付先として選ばれた公益法人は、毎年多くの遺贈・相続財産の寄付を受け付けているので、寄付に関する案内パンフレットを準備しています。一方、地方自治体や小さな団体では、条件を開示していないケースも多くあります。

このように、遺贈寄付をする際は注意すべき事項が多いので、一度専門家に相談してみるとよいでしょう。

解説者プロフィール

行武 綾子

ことり行政書士事務所

行政書士

行武 綾子

埼玉県所沢市で相続関連を中心に業務を行っています。遺言書があれば防げた相続トラブル、認知症になる前にやっておけば防げた事態、そういった事例を数多く目の当たりにし、事前の備えの重要性を感じています。元気なうちから気軽に対策に取り組んでいただけるよう、積極的に講座やセミナーで情報発信を行っています。


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