借地権の相続で知っておきたいポイント
2023/4/24
借地権は、建物を建てることを目的として他人の土地を借りる権利です。所有権とは違い土地の所有者である地主がいることから、相続後の地主との関り方で困らないよう、相続手順、地主とのトラブル例、借地権の処分方法などについてまとめました。なお、借地権は、地上権と土地賃借権の2つに分けられますが、ここでは、「借地権=土地賃借権」として、ご説明します。
もくじ
相続財産に借地権が含まれていた時の相続手順
地主への連絡
地主へは相続が発生した段階でその旨を連絡しましょう。
借地契約の確認
借地権には、旧借地法に基づく「旧借地権」、1992年8月1日施行の借地借家法に基づく「普通借地権」、「定期借地権(一般定期借地権、事業用定期借地権、建物譲渡特約付借地権)」があります。不動産としての評価額に関わりますので、まずは借地契約を確認し、内容を把握しましょう。
【借地権の種類と契約期間】
項目 | 旧借地権 | 普通借地権 | 定期借地権 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
種類 | 堅固な建物 | 非堅固な建物 | – | 一般定期借地権 | 事業用定期借地権 | 建物譲渡特約付 借地権 |
契約期間 | 30年以上 | 20年以上 | 30年以上 | 50年以上 | 10年以上50年未満 | 30年以上 |
遺産分割協議
遺言がなく、相続人が複数存在する場合は、誰が借地権を相続するのか、相続人全員による 遺産分割協議 で決めます。相続による借地権の権利移転の場合、地主の承諾は必要ありませんが、 遺贈 による場合は、地主の承諾や承諾料の支払いが必要となります。
名義変更
借地上の建物の名義変更(相続登記)をおこないます。借地上の建物が登記されていれば、借地権を第三者に主張することができるため、借地権そのものの登記は必要ありません。そもそも借地権そのものの登記はされていないことが一般的ですが、もし借地権が登記されていた場合は、建物とあわせて名義変更する必要があります。
改めて地主へ連絡
登記が終わったら、誰が借地権を相続する人(=今後の地代を負担する人)となったのか、改めて地主に連絡するようにしましょう。
相続にあたり、地主とトラブルになりがちなこと
名義変更料、更新料等の支払いを求められる
相続にあたって、新たな借地権者と地主との間に借地契約を結び直す必要はありません。なぜなら被相続人が地主と締結していた契約内容はそのまま相続人に承継されるからです。従って、地主から名義変更料や更新料等を求められても支払う必要はありません。しかし、地主との良好な関係を築いていく観点から、請求額が少額であれば、応じておくのも良いかもしれません。
地代の値上げを要求される
相続人は、被相続人が地主と締結していた契約内容をそのまま引き継ぐため、原則、地代の値上げに応じる必要はありません。ただし、土地価格の上昇等の経済変動により、地代の水準が近隣相場と比べ安価で「不相当」となっている場合は、「地代等増減請求権(借地借家法11条1項)」の行使により、地代が値上げされる可能性があります。
借地権は相続税の課税対象となる
普通借地権の場合、 相続税評価額 は「土地の価格×借地権割合」で計算されます。「土地の価格」は、路線価方式または倍率方式に基づく更地としての評価額です。「借地権割合」は、地域ごとに設定されており、住宅地の場合、60%~70%程度であること一般的です。これらは、国税庁のWEBサイトに掲載される「路線価図・評価倍率表」で確認可能です。なお、定期借地権の相続税評価額については、算式が複雑ですので、税理士等の専門家への相談をおすすめします。
借地上の建物を利用しない場合の対策
借地権を相続した人が借地上の建物に住む場合は問題ありませんが、借地上の建物を利用しない場合、空き家となってしまうことから何らかの対策が必要です。
売却する
地主に買い取ってもらう
旧借地権、普通借地権の場合、地主は正当な理由がないと借地権の更新を断れないため、半永久的に土地が返してもらえない可能性があります。土地を返してほしいと思っている地主も多いため、借地権者の相続を良い機会として買い取りに応じてもらえるかもしれません。ただし、建物ごと買い取ってもらえない場合は建物の解体費用は借地権者の負担となります。
借地権の第三者への売却
借地権を第三者に売却する場合は、地主の承諾が必要です。承諾を得る際には、借地権価格の10%程度を承諾料として地主に支払うのが一般的です。また、買い手が購入資金をローンで調達する場合、地主による抵当権設定の承諾が必要になります。一般の買い手がなかなか見つからない場合、売却価格は低く抑えられますが、専門の買い取り業者への売却も選択肢となります。
底地とあわせて第三者に売却
地主と協議の上、底地(地主が所有する借地権がついている土地)とあわせて第三者に売却することができれば、完全な所有権としての売却となり、より高額での売却が期待できます。売却代金は、借地権割合に応じて地主と分配するのがセオリーですが、円滑に話を進めるためにはお互いの歩み寄りが必要なケースもあります。
賃貸する
借地上の建物を賃貸するにあたっては、地主の承諾は不要です。ただし、建物の建て替えや大規模なリフォームを伴う場合は、地主の承諾が必要となります。
執筆
一般社団法人シニアライフよろず相談室
一般社団法人シニアライフよろず相談室は、信頼できる提携の専門家・企業とのネットワークを活かし、相続・終活など、シニアのさまざまなお悩みをワンストップで解決できる相談窓口を運営しています。毎週金曜日、夕刊フジにコラム「シニアライフよろず相談室」を連載中。