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相続した悩ましい土地を手放せる?相続土地国庫帰属制度の概要

2023/8/24

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誰も住む予定のない遠方の実家、山林、耕作する人がいない農地・・・。自分で責任を持って管理するのは困難だし、売却や有効活用も難しい。このような不動産が相続財産に含まれる場合、相続したい人がおらず、相続人の間で押し付け合いになるケースも散見されます。

相続放棄を考える人もいますが、相続放棄をおこなうと、最初から相続人ではなかったという扱いになり、「マイナスの財産」だけでなく「プラスの財産」も相続できなくなってしまいます。「相続したくない不動産だけを相続放棄する」ということはできません。

お金を支払っても良いので、この悩ましい不動産を引き取ってくれる人はいないものか?そんな悩みを持つ人たちに注目されているのが、2023年4月27日にスタートした「相続土地国庫帰属制度」です。「相続した処分に困る土地を、お金を支払って国に引き取ってもらう」という制度ですが、活用にあたっては様々な要件を満たす必要があります。

制度活用を申請できる人とは?

相続土地国庫帰属制度の活用を申請できるのは、相続や遺贈により土地を取得した相続人に限られます。売買や 生前贈与 により土地を取得した人、 遺贈 により土地を取得した相続人以外の人などは対象外となります。なお、土地を複数名で共有※している場合、共有者全員が共同して申請することで制度の活用が可能です。

※共有者の中に相続や遺贈により土地を取得した相続人が1名でもいれば申請が可能です。

注意!このような土地は本制度活用の対象外に

土地の管理コストの国への不当な転嫁やモラルハザードの発生を防止するため、下記のいずれかに該当する土地は、制度活用の承認申請が却下されます。

  • 建物が存在する土地
  • 担保権や使用収益を目的とする権利が設定されている土地
  • 通路等、他人による使用が予定されている土地
  • 土壌汚染されている土地
  • 隣地との境界が明らかでない土地や所有権等につき争いのある土地
  • 崖があり、通常の管理に過分の費用・労力を要する土地
  • 通常の管理・処分を阻害する工作物、車両または樹木が地上に存在する土地
  • 通常の管理・処分をおこなうために除去すべき有体物が地下に存在する土地
  • 隣接する土地の所有者等との間にトラブルを抱えている土地
  • その他、通常の管理または処分にあたり、過分の費用・労力を要する土地
    (土砂の崩壊の危険がある土地、大きな陥没のある土地、大量の水が漏出している土地など)

上記のいずれか一つでも当てはまる場合は、制度の適用がされるよう土地を整備した上で申請する必要があります。つまり国庫帰属の対象となる土地は、「通常の管理・処分に問題のない更地」に限られるといえます。

制度の活用に要する費用は?

制度の承認申請をおこなう場合、土地一筆当たり14,000円の審査手数料がかかります。納付した審査手数料は、申請取り下げや不承認となった場合でも返還されません。なお、承認された場合は、10年間の標準的な土地の管理費用相当額が負担金として発生します。「宅地」「田・畑」などの場合、面積にかかわらず原則20万円(例外規定あり)、「森林」は面積区分に応じた算定となります。このほか、「国庫帰属制度の対象となる土地」の要件を満たすため、建物の解体費用や土地の境界確定費用等がかかることも多いと考えられます。これらを含めると、国庫帰属に要するコストは、思わぬ高額となる場合もあります。

制度活用の流れ

国庫帰属の実現までには、
①「法務局へ事前相談」
②「申請書の作成・提出」
③「要件審査」
④「承認・負担金の納付」
⑤「国庫帰属」
というステップを踏む必要があります。

申請書類の作成業務については、弁護士、司法書士、行政書士に限り、依頼することができます。なお、申請書の提出から国庫帰属完了までには、半年から1年程度かかるとされています。制度の活用を検討する場合は、まずは対象となる土地を管轄する法務局に予約を取り、事前相談からはじめましょう。対象となる土地が遠方にある場合、お近くの法務局にも相談が可能です。

まとめ

相続土地国庫帰属制度は、処分に困る相続した土地を手放すことのできる画期的な制度として期待されていますが、実際に活用する上では、かなりハードルの高い要件をクリアする必要があります。そのため、制度を活用できる方は、かなり限られてくると思います。ただ、農地については、相続土地国庫帰属制度の対象外となる要件に比較的該当しにくいと言われています。相続した農地にお悩みの場合、まずは事前相談からチャレンジしてみても良いかもしれません。

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一般社団法人シニアライフよろず相談室

一般社団法人シニアライフよろず相談室は、信頼できる提携の専門家・企業とのネットワークを活かし、相続・終活など、シニアのさまざまなお悩みをワンストップで解決できる相談窓口を運営しています。毎週金曜日、夕刊フジにコラム「シニアライフよろず相談室」を連載中。